時期がお盆ですので、先祖(仏様)の供養が目的ですが、五穀豊穣・無病息災の祈願も兼ねているようです。この「盆綱(ぼんづな)」は、ここ成田市山口をはじめ、ごく限られた地域でしか見られない、貴重な風習です。
では、「成田市山口の盆綱(ぼんづな)」の中身に入る前に、基本データを見てみましょう。
発祥起源 | 不明(江戸時代より古い?) |
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発祥場所 | 不明(茨城県南部から千葉県北部か?) 「盆綱(ぼんづな)」の習俗が、この地域に集中していることから推測。 |
拠点(成田市山口) | JR成田線の「成田」駅と「下総松崎」駅の中間ぐらい。「成田」駅から北西へ約2km⇒地図参照 |
拠点(お寺) | 臻暁山(しんぎょうざん)證明寺(しょうみょうじ) |
時期 | 毎年お盆の季節(綱はその前から準備)8月13日~15日 |
対象世帯 | 成田市山口地域の約90軒 |
主役 | 地元成田市山口地域の小学生男子(何故か男子に限定されているようです) |
盆綱(ぼんつな)の長さ | 3m~10m(曳く人数によって長さを変えています) |
※上記地図は、Google及びZENRINに著作権があります。
盆綱(ぼんづな)とは、茨城県南部から千葉県北部に伝わる盆行事の一つ。
子供達が、藁(わら)で作った「綱」を曳いて、墓地から家々へ回る習俗です。
お盆に綱を曳き回すことから、「盆綱(ぼんづな)」と呼ばれたようです。
この「盆綱(ぼんづな)」には先祖の霊が宿るといわれ、迎え盆(8月13日)にお墓から各民家へ、送り盆の8月15日には迎え盆(8月13日)とは逆の道順で、お墓に戻します。
先祖の霊を盆綱(ぼんづな)に寄りつかせ、迎え盆に家々へ霊を運び、送り盆に墓地へ戻す習俗です。先祖(仏様)の供養と、五穀豊穣・無病息災の祈願が目的です。
「盆綱(ぼんづな)」は次の手順で行われます。
まず、「綱(つな)」に使う「藁(わら)」を集めます。時期は7月末から8月初め。
丁度梅雨が終わったころです。この藁(わら)といえば、昔はどこの農家にもありました。
しかし、最近は機械化が進み、稲刈りは機械(コンバイン)ばかり。
刈り取った藁(わら)はコンバインで粉砕されるので、どこの農家に行っても、藁(わら)は残っていません。その為、特定の農家に頼んで、手作業で稲刈りを。
これで、やっと藁(わら)が手に入りました。
持って帰った藁(わら)は、外に広げて天日干し。途中で雨が降っては大変。天気とのにらめっこです。藁(わら)の芯を強くするために干している途中で水をかけます。これも先人達の知恵です。
次は綱(つな)作りです。こちらは、更に技術が要ります。
綱といっても「龍蛇」といって、龍と蛇に似せた綱(つな)です。長さは、曳く人数に合わせて調整。最近は曳く人数が少なくなったので、「3m程度」が主流。昔は「10m」にもなったようです。
藁を大中小の三種類の大きさに束ねます。この藁を編み込んで綱にします。頭部を約20cm程度に大きく束ね、尻尾のに向かって細く編みます。子供達が、その「龍蛇」が持ちやすいように、「龍蛇」の胴体に、細い縄を人数分取りつけます。
この綱の作成は、さすがに小学生では無理なので、大人や先輩達が代役を務めます。
子供達は、そばで見て綱作りを覚えていきます。(技術の伝承ですね)
お家周りの出発点は「お墓」です。ここ證明寺(しょうみょうじ)で、ご先祖様(霊)を綱(つな)に宿します。霊を宿すのに、お決まりの唱え(かけ声)があるようです。
ご先祖様(霊)に、「どうぞ、この綱に乗ってください」というお願いごとです。
ご先祖様(霊)が宿った「盆綱(ぼんづな)」を、小学生の男子達が曳きます。男子に限られているようですが、こちらの地域では女の子も一緒に曳いています。
衣装は私服ですが、白装束で曳く地域もあるようです。
この子供達のなかに一人リーダ役がいて、そのリーダが全体を指揮します。
綱は子供達だけで曳きますが、親御さんや先輩達が付き添うこともあります。
曳き手の低年齢化に伴い、子供達だけでは「危険」との配慮です。(これは安心)
「盆綱(ぼんづな)」を曳く先は、地域内の全民家です。因みに、ここ山口には約90軒の民家があります。これを3日間(13日~15日)で回りますので、1日30軒を回ることなります。
かなりの重労働。しかも暑い。
家の前では、「盆綱です、おぼしめし下さい」と声をかけます。
すると、家の人が出てきて、「ご苦労さん」といって、ご祝儀(お金)がいただけます。
家によっては、(新盆の家?)ご祝儀に加え、お菓子ももらえるので、この辺のところは、子供達も心得ており、お菓子を入れる大きめのリュックを持参。しっかりしています。
途中、親御さんや先輩達が「花火」を上げてくれます。この「花火」も毎年の恒例です。
ひょっとして、この「花火」単なる”お遊び”ではなく、他に意味がありそうですね。
「ここに、ご先祖様(霊)がいらっしゃいますよ」の合図でしょうか。
因みに他の地域でも「花火」は付きもののようです。
回った家では、こんな会話も聞かれます。
「あらっ、ボク、どこの子?」、「○○です」、「えっ○○さんの△△くん?大きくなったね」
狭い地域といいながらも、なかなか顔を合わせたり、話をするすことが少なくなった、このご時世。こういうところで、大人やお年寄りと子供達が触れ合うのですね。
盆綱さん、ご先祖様、仏様ありがとう。
家を回る途中、子どもたちはリーダーに従って、「ろーっこんしょうじょう」と唱え続けます。
意味不明ですが、一種の元気づけでしょう。
他の地域でも、似たようなものがあります。きつい坂道で、「どっこちょうじょう、どっこいちょうじょう」と唱えます。各地域の”唱え”を集めるだけでも楽しいでしょうね。
家々を回ったあとは、霊をお墓(お寺)にお返します。ここでも、霊を降ろすかけ声や、儀式があります。帰り道は、来たときと逆になります。途中、山林を通るので、昼でも暗い。
でも、日陰になって、子供達は涼しそう。
すべての儀式が終わった綱は、お寺に返します。綱は1回切りの役目。
この綱の処分は、地域によって少しずつ違っているようです。
ある地域では、綱を二人で揺すって、切れた綱の長い方を墓地へ、短い方をお寺に返すようです。
そして、最後の締めは「祝儀」の”山分け(配分)”です。
子供達が一番楽しみにしていた”儀式”です。90軒を回ると、祝儀はかなりの額になります。ちょっとした(いいえ、かなりの)お小遣いです。
どうでしたか、「成田市山口の盆綱(ぼんづな)」。
毎年のお盆に、小学生の子供達だけで竜蛇の形をした綱(盆綱(ぼんづな))を曳いて、民家を回る。とても楽しそうです。
その子供達が最近は少なくなりました。ここにも少子化の波が押し寄せています。
ちょっとさびしく、心配でもあります。
盆綱(ぼんづな)は珍しい風習で、地域に根ざした行事でもあり、大人やお年寄りが子供達と触れ合える大事な場です。ここ山口の誇りです。
この盆綱(ぼんづな)を、これからもずっと継承していって欲しいものです。
古い伝統を守って、未来につなぐのは、現在を生きる私たちの務めですから。