「奈土(など)のおびしゃ」をご紹介します。「奈土(など)のおびしゃ」は、成田市の奈土(など)地区に、古くから伝わっている祭礼(さいれい)です。平たくいうと、神社のお祭りのことです。他の地域のお祭りと違うのは、約150年の歴史を持っていることでしょう。
奈土のおびしゃが行なわれる神社は、「磐裂(いわさく)神社」といい、毎年2月13日に行われています(※最近はその日に近い日曜日で開催)。お祭りの目的は、五穀豊穣と家内安全、子孫繁栄です。
このお祭りには、幾つかの珍しいことがあります。一つは、氏子さんたちで、「神様を預かる家」を決めていることです。この神様を預かる家を官主(かんぬし)と呼ぶようです。
二つ目は、この官主が毎年変わることです。奈土地区には、民家が50軒ほどあります。ということは、50年に一回、自分の家にその官主が回ってくることになります。一生に一回、官主を受けることになるので、一生のうちに1回、ありがたい役が回ってくることになります。
三つ目は、この引継ぎの作法です.(詳細は後述)。この官主の引継ぎ行事が、今回の主役「おびしゃ」です。この珍しい「奈土(など)のおびしゃ」を見ていきましょう。
まずは動画をご覧ください。「百聞は一見」にしかず」です。
■ 動画 ■
奈土のおびしゃ(千葉県成田市奈土・磐裂(いわさく)神社)の動画
(※動画提供:株式会社シマワークス http://shima-works.com/)
祭りの午前中は、神職さんによる神事が行われます。
祈祷内容は、「五穀豊穣」、「家内安全」、「子孫繁栄」です。
普通のお正月などに行われる祭礼と同じですね。
神事の大きな流れは次のようになっています。
次期官主(かんぬし)は、御幣の依り代(ごへいのよりしろ)を襟に差し込まれたあげく(3)、その後、座敷の儀(4)でも、三つ叉の儀(5)でも、自分の家に帰り着くまでは、一言もしゃべってはいけないようです。
襟に差し込まれた御幣の依り代(ごへいのよりしろ)の「依り代(よりしろ)」とは、「神が宿る」という意味です。その「神」を自宅に案内するまでは、何が何でも守り抜くという意味があるのでしょうね。この1年間、ずっと、この「依り代(よりしろ)」を守り通します。
因みに、「御幣の依り代」を襟に差すのは、神様を「おんぶ」するところからきたようです。
(定説ではありません)
また、「おびしゃ」はこの「おんぶ」がなまった言葉という節があります。
1年間、神様をあずかる人(お家)を官主(かんぬし)と呼びます。こちらの官主は、民間人です。
「かんぬし」といっても、「神主」ではありません。「奈土(など)のおびしゃ」の「かんぬし」は、普通の人が務めます。
「奈土(など)のおびしゃ」の官主は、地元の人(区民)が、交代で務めます。任期は1年です。因みに、官主を「かんぬし」と読むのは、ここ奈土(など)だけのようです。正しくは「かんじゅ」と読みます。
「おびしゃ」は漢字で「御武射」と書きます。
正式な呼びかたは「おんぶしゃ」なのですが、奈土(など)では、「おびしゃ」となっているようです。「おびしゃ」のほうがなじみやすいですね。この「おびしゃ」の意味ですが、簡単に言うと、「かんぬし(官主)の引継ぎ」です。
(正確には、この「引継ぎ」を含めた一連の祭事を指します)
この祭礼をきっかけに、「かんぬし(官主)」が新しい氏子に変わります。
座敷の儀は、現「かんぬし(官主)」の自宅で行われます。ここでの儀式は8人単位で行われます。
先程「座敷の儀」が終わりましたが、これで終わりではありません。
外に出て、ぞろぞろと歩いた先にある「三叉路」で立ち止まりました。
すると、そこでまた酒盛りが始まりました。
”むしろ”を敷いて、お酒の準備が始まりました。
人々の横を車が通り抜けていきます。
ここは公道ですので車が通るのは当然ですが、車のほうが遠慮がちなんですね。
いやはや、”のどか”な風景です。
これを「三つ叉の儀」と呼びます。これも大事な儀式の一つです。
清めの酒ですので、いくら飲んでも良いのですがお酒が弱い方は大変ですね。
儀式の間、現「かんぬし(官主)」さんの庭先では、獅子舞とお囃子が披露されます。
獅子をかぶった舞はどこでもありますが、ここでは、獅子かぶりのあと、写真のような「頭(かしら)」だけで舞います。(写真は「鈴舞」といいます) この舞が素晴らしいのです。
古式豊かといいながら、どうみても「モダンダンス」です。舞は、「鈴舞」のほかに、「幣束舞」、「水汲み」、「悪魔払い」があります。
太鼓と笛の音が、座敷に流れてきます。このお囃子が、更に神事を盛り上げます。
このお囃子は全部の儀式が終わるまで続きます。場を盛り上げる、みごとなBGMです。
・住所 : 千葉県 成田市 奈土738 磐裂神社
・アクセス : JR成田線成田駅・京成線成田駅からバス佐原粉名口行き「松子屋」下車タクシー5分
いかがでしたでしょうか。
この「奈土(など)のおびしゃ」を約150年も続けているのですから、素晴らしいの一言です。
伝統行事というと、堅苦しいイメージがつきまといますが、この「奈土(など)のおびしゃ」は、
何故か家庭的で、ユーモアさえ感じます。若い人もお年寄りも一つになります。
全戸、全家族総動員です。それは、最後の直会(なおらい)を見たらよく分かります。(直会(なおらい)は、早い話「打ち上げ」ですね)
打ち上げには、それこそ、若者とお年寄り・年配者が一つになります。
これが奈土(など)地区の「絆(きずな)」なんですね。
なお、「おびしゃ」と呼ばれる行事は、他の地域でもあるようですが、「奈土のおびしゃ」は、古くからの形式を忠実に守ってるから、県の「無形民俗文化財」にも指定されているのですね。
この珍しい「奈土(など)のおびしゃ」は、奈土地区の誇りです。貴重な財産です。
これからも、ずっと、ずっと受け継いでいって欲しいと思っています。