江戸時代から多くの美食家をうならせてきたもの。それはそば。
同じそば粉を起点としているのに、喉越しや歯ごたえや風味などお店によってまるで違います。
店構えからしてお屋敷みたいな高級路線のそば屋さんの玄妙な雰囲気も素敵ですが、気取らずにふらっと入って、ずずっとそばをすすって、いつもの味に安堵して帰る。そんな生活に寄り添ってくれるような優しい味のおそば屋さんもやっぱり素敵です。
「とろじ」さんは後者に挙げたような、肩肘張らない雰囲気とあたたかい味のおそばをご提供下さるお店でした。
風情ある佇まいの「とろじ」さん。使い込まれた印象の出前用スクーターが停まっていました。
最近この型のスクーターも、あまり見かけなくなりましたよね。入店する前から溢れるノスタルジーに、たっぷりと浸れます。
店脇に備えられた駐車場は、かなり広いです。
駐車場からの出入り口は、まるでお茶室の入り口のようでした。
店先に咲く花が、ほのぼのとした風情を添えています。
もしかしたら「とろじ」さんの店名は、お茶室のお庭の”外路地(とろじ)”に由来しているのかもしれないなあと思ってみたり。
そのくらい、野趣に溢れた風景です。
正面入り口にかけられた暖簾は、白地に味のあるフォントで書かれた店名のみのシンプルさ。こちらをくぐり、「とろじ」さんにお邪魔します。
昔ながらのテーブル席は、木製の仕切りに囲まれています。
窓際から自然光がいっぱいに差し込む店内は清潔で、のんびりと落ち着く雰囲気です。
この気取らないお店の雰囲気に惹かれて来店する地元のお客さんが多いとのこと。お客さんで賑わっていても騒々しさは感じられず、すごくほっとできます。
ご店主が撮影した味わいある風景写真が、店内の至るところに飾られていました。
奥にはお座敷席があり、靴を脱いでのびのびとくつろげます。
各テーブルに置かれた、そばとうどんのメニューです。冷たいうどん・そばには、なめこおろしや山菜おろしなど、さらりと食べられそうなメニューがずらりと並んでいました。あたたかいそば・うどんのほうは力うどんや肉南ばん、辛口カレーなど、とてもバリエーションが豊かで充実した品ぞろえ。
メニューの末端にある「とろじ」さんの店名が冠されたメニューがすごく気になります。これをお願いしよう。
御飯ものも充実していて、定番の玉子丼からはじまり、カレー丼を経てうな重まで網羅しています。お酒に合う一品料理のメニューに揚げたての天ぷらがあるのは、そば屋さんならでは、ですね。
お願いしていた「冷とろじ」がテーブルにやってきました。丼の中には、なんとうどんとそばが半分ずつたっぷりと盛られています。
さらに驚いたのは、山菜、うなぎ、海老の天ぷら、鶏肉、とろろが惜しげもなく全部乗っていたということ!
さすが店名を冠した品は格が違いました。
暑い日に伺ったので、スタミナが思い切りつきそうなこの逸品は嬉しいサプライズです。
大きい海老は揚げたてで具材もたっぷり。その下に潜むそば+うどんの夢のコラボ。
具材がたっぷりすぎて、コラボが見えません。
たっぷりの具の下の、丼の底に潜むうどんとそばの一挙両得っぷり。
そばはそば粉の香ばしさがよく感じられる喉越しのよい細めの麺で、うどんはもっちりとした食べごたえと強いコシのある麺でした。
冷水でよく絞められているのも、ありがたいお心遣いです。
つゆは出汁がよく感じられ、少し甘めのまるみある優しい味です。
素朴なそば。飾らないうどん。まろやかな甘さの味の優しい味わいのつゆ。
「とろじ」さんで頂いたおそばやうどんに「~産の粉、こだわりの自家製麺」などといった仰々しい煽り文句はむしろ無粋。ありのままの態がよいのです。
朴訥なそれらを味わったしばらく後に、アットホームな店内の雰囲気を味わいがてら、きっとまた定期的に食べたくなるはず。
ほっとできる味の料理もさることながら、お店の空気感もまた「とろじ」さんを「とろじ」さんたらしめる重要な要素なのですから。
「とろじ」さんに向かう道すがら振り返ると、発展著しい成田ニュータウンと成田湯川駅が一望できます。
ちょっと高台からの眺めもおすすめです。