「餡(あん)炊き十年」という言葉が示すように、熟練の和菓子職人へと至る道が長く険しいのは周知の通り。あんみつ、おしるこ、いそべもち、さまざまな主菓子。
「三芳家」さんで味わえる甘味の数々は、じっくりと丁寧に炊き上げられた餡を軸に展開されます。
こだわりの詰まった餡の絶妙なる甘さに舌鼓を打ちながら目を上げると、そこには翠緑滴る日本庭園「三景園」の端然としつつも心和む風景が展開されているという素晴らしさ。
「三芳家」さんに立ち寄らせていただくと、心身共に和の風に包み込まれて満たされます。
成田山新勝寺参道から少し離れた場所にある「三芳家」さんへと続く路地。
石畳や蹲(つくばい)などがセンス良く配置された和テイストの趣に満ちたひそやかな小径の先には、素敵な和菓子との出会いの予感しかありません。
木のぬくもりを宿す店構えと家具たち。穏やかな光を湛える円な照明、明るい自然光を目いっぱい迎えるオープンなガラス張りの窓。
こちらの席からも素敵な景色を眺めることができます。
その向こうに見えるお庭。居心地のいい空間は、和と洋の調和によって成り立ちます。
テーブル席から望める端正な日本庭園。シダレザクラやオオムラサキツツジなど四季折々の美しい花木を愛でることが出来ます。無為自然に見えて緻密に計算され尽された設計のお庭は、成田市にご在住の庭師の庭心氏の手によるものです。
お庭の小川から店舗を望む一枚。すごく風雅です。
艶のある飴色に光るテーブルには天衣無縫の光とお庭の緑が反射されます。和的な空間に在りながら、その空間に溶け込む洋風のテーブルと椅子。主張をしていないのに十分な存在感があるという不思議さ。
そして不思議なのに極めて自然だという不思議。そんなところに「三芳家」さんの空間設計の妙を感じます。そして全方位から庭が眺められるという贅沢な空間なのです。美味しい甘味を頬張りつつ、緑に包み込まれる感覚を是非とも味わってみてください。
奈良は吉野の希少な本葛を使用したこだわりのくずきりや無添加の甘酒、そしてこんにゃくのわらびもち。本格的な甘味から遊び心のあるものまで楽しめるのが「三芳家」さんの素敵なところです。
自家製のやわらかなお餅はどれも人気ですが、地元成田で有機栽培によって作られたピーナツペーストにきな粉と共に混ぜ込まれたクラッシュピーナッツの食感が楽しい濃厚なピーナツ餡が添えられたおもちは特に人気が高いです。
滋味深く優しい甘さの餡が使用されたメニューです。白玉あずき、いなかしるこ、クリームあんみつなど甘味好きならすべてオーダーしたくなるラインナップ。ピーナツペースト添えのアイスもすごく気になります。どれも食べたい!
抹茶をオーダーすると桜餅がついてきました。抹茶にプラスされる和菓子はメニューには仔細は載っていないのですが、常に工夫の利いた、それでいて本格的な主菓子が味わえます。主菓子目当てに季節ごとに通わせていただくのも乙なものです。
きめ細かな泡立ちのお抹茶は渋さとほろ苦さの中にコクと甘みがある本格的なもので、絹のように滑らかな喉越しでした。豊かで繊細な味わいの「三芳家」さんの抹茶はビギナーでも通の方でも楽しめます。
クリームあんみつです。とろりと濃密な黒蜜をかけていただきます。肉厚のあんずやプルーンはほどよい酸味を添えておりさっぱりとしており、抹茶パウダーが散らされたバニラアイスは乳度が高くこっくりとした甘さで、白玉はもっちりとした食感でとても食べ応えがありました。
つぶ餡かこし餡かとよく論争される餡は、なんと双方とも乗っています。この餡がまたどちらも美味しい。質のいい小豆の力強い味やあたたかみのあるまろやかな砂糖の味が感じられつつも主張し過ぎておらず、かといって、これだけ色々と乗っているのに餡の存在感がまったく霞まない。甘いものや酸味のあるものの仲立ちをしているような…それでいてリーダーのような存在感です。
「三芳家」さんの空間や庭園設計と同じですよね。一見異なるものが一緒に存在しているのに、巧みにまとまっている。そんな心地よい不思議さでした。
「三芳家」さんは、美味しい甘味をご提供下さるのと同時に、豊かな時間をご提供下さることへのやむなき探求心を感じさせてくださるお店でした。こだわりの詰まった甘味と過ごすゆったりと楽しい時間は、特別な空間あってこそますます余韻あるものとなります。お店から望める名園「三景園」は訪れる人の心身をきっと瑞々しく清々しい緑に染めて、リフレッシュさせてくださるはずです。